ボストンつれづれ通信 02号 November, 2018
・今月のわくわく
〈初めてなのに懐かしい、この土地に励まされて〉
アメリカに来て1カ月半が経ちました。日々、様々なドタバタはあるものの、想像していたよりもずっと早くこの地に馴染めたように思います。大きな助けとなったのは「自然nature」です。
私が暮らしているのは、ボストンからチャールズ河を挟んだ北側に位置する、ケンブリッジ。ハーバード大学やMIT(マサチューセッツ工科大学)を抱えるケンブリッジは、キャンパスがある中心地から少し離れると、大きな池、森が点在し、気持ちのよい散歩道も整備された住宅エリアが広がっています。私が居住しているアパートの裏でも、朝夕は、池でカモの大群やアオサギが水浴びをし、樹々の間には、リスやウサギ、小鹿を見かけることもあります。秋のはじめには白鳥もいたそう。時を遡れば、かつてはビーバーもいたとか!
到着した日の夕暮れ、心をほぐしてくれたのは、それら自然の情景でした。私が育った宮城の田舎町に通じるものを感じ、「ああ、きっと大丈夫かな」と思えたのです。
ボストン、ケンブリッジは、仙台となんだか似ている気がします。街並み、自然環境、それらに囲まれて育まれた人々の文化や暮らしの色合い…。重なるものが多々あるように思うのです。
身近に感じる自然に励まされ、街の息づかいにときにハッと感動し、ときに懐かしく安堵する。たくさんの人々に支えられて生きていますが、この魅力ある土地にもいっぱいパワーをもらっています。
・今月の困った
〈Thanksgiving Dayの日に〉
毎年11月第4木曜日は、アメリカの祝日として定められているThanksgiving Day(感謝祭)。神に収穫の感謝を捧げるというこの日は、家族や親戚、友人たちで集い、ともに食卓を囲んで過ごします。
今年は11月22日が感謝祭でした。数週間前から、俄かにみんながソワソワし始め、「七面鳥は買った?」「食事のお誘いは忘れていない?」「仕事なんて二の次!」といった会話があちこちで聞こえます。感謝祭について教えてもらい、日本でいうとお正月みたいな感じかなと想像しながら、ひっそりアパートで手巻き寿司でも食べようかと思っておりましたが、幸運にもESL(English as a Second Language)で知り合ったご家族に夕食に招待いただきました。
親子3代が集うお家で、感謝祭の、素朴だけれど滋養のあるメニューをいただきました。七面鳥の丸焼き、パンプキンパイ、スウィートポテトや青リンゴのサラダなど。ともに祈り、団らんするあたたかな時間に交えていただいて、家族っていいなとしみじみ。感慨深いものがありました。
さて何に困ったのかといいますと、感謝祭当日は、ほぼ全てのお店がお休みするという事実。お土産のワインを買いにでかけたら、リカーショップどころか、スーパーもデパートも、レストランも本屋もパン屋もみーんな休み。そう、まるで元旦です。翌日の金曜日は「Black Friday」と呼ばれる、大バーゲンの日だというのに…。困った末、お土産はアパートに貯蓄していた日本のお菓子をかき集めて持参。
クリスマスのような祝祭日については知っていたけれど、もっともっと地域の文化や慣習について関心と敬意をもって学ぶことが大事だなと感じる経験となりました。
・今月のびっくり
〈初雪!〉
11月16日、ボストンに初雪が降りました。もう雪!?とびっくり。夜更けから深々と降り始め、一晩で20センチほど積もりました。昼間には融けてしまいましたが、冬がはじまる合図に、ESLでもひとしきり盛り上がりました。
ジャマイカから来た女性、「雪を初めて見たの」。大人になって初めて見る雪の感想は?「白くて、冷たいのね。めずらしくて触ってみたけど、もういらないかな」(笑)。それから「犬って、どうしてあんなに雪の日が好きなんだろう。朝、外に出たい出たいって、元気いっぱいなんだよ」とESLの先生。そこで私は「犬はよろこび庭かけまわり、猫はこたつでまるくなる」の唄について伝えたかったものの、力及ばず。未だにちょっと悔しい…。
生まれも育ちもばらばらでも、初雪を迎え、これから長い冬を経験し、ともに乗り越えていく。厳しいこの季節だからこそ、伝えあいたい言葉がたくさん生まれそうです。もっと話したい、伝えたい、学びたい、という気持ちが強くなる、この冬の始まりなのでした。
・今月のヘルプ!
〈異文化に深く触れるために〉
こちらに来て、アメリカ、そして身の回りの日常的な文化や慣習について少しずつ知る機会をもったのですが、それらは、ESLでの会話、現地の日本人からの情報、新聞などで飛び込んでくるもの、インターネットを拾っている感じで、受け身の連続。これでいいのかなと思う今日この頃です。
質問:たださんは外国で暮らしていらした経験の中で、今の活動にも生かされている様々な慣習、仕組みなどに触れられたと思います。きっと受け身ではなく、アクションがあったからこそ得たものかなと思うのですが、もう少し踏み込んで異文化からの学びを得るために、こうしたアクションや心構えがいいよ、といったアドバイス、ぜひいただきたいです。
・今月の答え
エリさん、今月も、とっても面白い、現地のお話を分けていただいてありがとうございます。お祝いのワイン買えないってびっくりですよね。先月よりも、ずっと土地になじんで、英語もたくさんしゃべっている様子が読み取れます。とっても嬉しいです。
さて、深い異文化体験をするには?もしくは、こちらからどうアクションを取るとより面白い異文化体験ができるか?ですが、ひとつは、観察です。今、ワークシートを作っているのでできたら送りますが、異文化に対して感じた、これはすごい!これはいや!という点をメモしておいてみてください。そして、メモがたまったら、どうしてそういう仕組みや考え方になっているのか、その背景を考えてみてください。すぐにはわからないかもしれませんが、3カ月後、1年後、3年後、ああ、そうだったのかと思い当たる背景にあたる考えを理解することができます。メモは大事に取っておきましょう。
もうひとつは、こちらからアクションを起こしましょう。一緒に調べた、ボストン俳句ソサイエティや美術館には、もう行ってみましたか?ESLは楽しいし、外国からの友達を作るのには、絶好のチャンスです。そして、友達ができやすいです。でも、現地の人ともかかわる機会も作りましょう。外国人としてではなくて、現地の人として体験する世界を隣で見ることは、想像するよりもずっと、大きな体験です。え、そこでそういうの?とか、あ、この人はこのことで苦労しないんだ。私だけがここで違う対応をされた!などということがわかります。ESLの人たちとは違って言葉の壁は高いし、文化の違いもとても大きいですが、彼らがマジョリティーである世界で生きている空気を吸うことで、学べることがたくさんあります。ぜんぶが楽しいことだけではないかもしれません。でも、きっとエリさんと気の合う人もいると思うのです。そうでなくても、俳句をどういう風にアメリカ人が理解しているかとか、美術に対する考え方の違いに触れるだけで、たくさんのことを今は言語化できなくても、学ぶことができます。
理解は後からやってきます。言葉になるのもゆっくりです。特に今は二つの言語を行き来しているので、理解はゆっくり来ます。でも、体験はできます。無理のない範囲で、新しい、アメリカ人がいる場所に行ってみてください。きっと、エリさんのびっくりすることが待っていると思いますよ。
では、また次回!楽しみにお待ちしております。
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